東京高等裁判所 昭和56年(う)1715号 判決
被告人 夏坂政善
〔抄 録〕
(一) まず、建築基準法六条一項によると、建物を増改築する場合でもその床面積が一〇平方メートルを超えるときは建築確認申請をして確認を受けなければならないこととされているため、増改築の形で本件建物を建築するときでもこの確認を受けなければならなかったことは明らかである。そして、この点につき被告人に認識があったことは、被告人の捜査段階及び原審公判廷を通じての一貫した供述によって十分に認めることができ、所論もこれを争っていない。他方、本件土地は、細い路地状部分によって公道に接しているため、建築基準法四三条二項、東京都建築安全条例一〇条により、その上に二戸長屋以外の共同住宅を建築することは禁止されており、かりに本件建物について建築確認申請をしても八戸の共同住宅であるところから右の確認を受けることができないものであったことが明らかである。被告人は、本件以前の昭和五二年秋ころ、その所有する東京都品川区西品川の土地にマンションを建築しようと考え、有限会社宮尾設計事務所の代表取締役宮尾辰雄に相談した際、共同住宅に関する右の法令上の制限があるためマンションの建築ができない旨の説明を受け、通常のビルの建築に切り替えたことがあり、同じく本件以前の昭和五三年二月ころ、その所有する東京都杉並区南荻窪の土地に共同住宅たるアパートを建築しようと考え、右宮尾に相談した際にも、右と同様の路地の制約があって希望どおりの共同住宅の建築が許されないとの説明を受け、二戸長屋の設計に基づく確認申請を頼んで確認を受けたことがあって、前記のような法令上の制限については十分に承知していたと認められるのであり、この点についての被告人の捜査段階及び原審公判廷における自認も十分に信用することができる。そうしてみると、右の事情を秘し、合法かつ確実に原判示のような共同住宅を建築して引渡すことができるかのように装って原判示の契約を締結し、そのように誤信した筒井親子から金員の支払を受けたのは、それだけで詐欺罪を成立させるに十分であるといわなければならない。
(二) さらに、本件当時における被告人の経済状況をみると、土木建築、鉄工設計を営業目的とする北日本鉄工建設株式会社の経営が極度に不振であったばかりか、前記西品川及び南荻窪の土地や本件松庵の土地を相次いで多額のローンで購入したことなどから借金が重なり、月毎のローンの返済すら満足にできない状況であり、本件土地もすでに合計二三〇〇万円の借金の抵当に入っており、筒井親子から受領した合計一五〇〇万円もそのうち本件建物の建築工事に使用したのは三〇〇万円程度であって他はすべて借金の返済や生活費に費消していたことが明らかである。こうした被告人の経済状況からみると、本件契約からわずか二か月程後の昭和五三年七月一五日までに本件建物を完成したうえ、これと本件土地とを筒井親子に対し引渡すことはとうてい不可能であったというべく、この点からみても被告人に詐欺罪の犯意のあったことは明白である。
(千葉 香城 植村)